2024年10月8日、株式会社マイナビが主催する博士向けキャリアセミナー「博士の力が活きるキャリアの探索」に参加しました。文部科学省は多様で卓越した研究を生み出すために、「博士課程の処遇向上」と「博士学生のキャリアパス(活躍の場)の拡大」に注力しています。本セミナーでは、博士をとりまく現場や課題に対し、文部科学省を中心とした産学官でどのように対応していくのかが語られました。博士学生の処遇とキャリアパスについて、これからどのように展開されていくのか、文部科学省の方のお話をお届けします。

主催・講師
主催
株式会社マイナビ:国内最大規模の就職情報サイトの運営や、就職イベントの開催、採用業務のアウトソーシングなどの事業を展開。
講師
・久保 直子 氏:文部科学省 科学技術・学術政策局
・星野 倫太朗 氏:株式会社マイナビ 新領域開発室 マネージャー
博士人材の必要性
1.経済規模(GDP)との相関
まずは、経済規模(GDP)と理工系博士号取得者数には、ある一定の相関関係がみられ、GDPの増加に伴い博士号取得者数が増加する傾向にあります。そのなかで、日本の博士号取得者数は低水準で推移しています。日本以外の各国の伸びが大きいことから、国策として博士人材を増やす国が多いことが見てとれます。このことを踏まえると、日本は国際競争力において他国に遅れをとっています。

文献1より引用
2.企業での高い発明生産性
特許出願件数と論文の被引用件数について、入社後の推移を学歴別に見てみると、博士は修士以下に比べて件数が多いです。また入社時点から、博士と修士以下で差がついています。このことから、修士を採用して博士号取得を支援するよりも、課程博士を採用した方が研究の生産性が高くなる傾向にあると言えます。
入社年数をを経て生産性がどんどん上昇していくことを考慮しても、研究の質が高い状態を保つことができるので、
文部科学省では、アカデミアに限らず企業においても、博士人材を活用できると考えています。

文献1より引用
博士学生の評価
企業での評価
「期待を上回った」と回答する企業の割合が、学士や修士よりも博士は高いです。また、「期待を上回った」と「期待を下回った」それぞれの回答割合の推移を見てみると、経年的に見ても博士人材の評価は高まる傾向にあります。イノベーションを創出できるような研究力という点で、博士人材の活用について期待を上回ったと考えられます。

文献2より引用

文献2より引用
また、大学発ベンチャー企業での従業員に占める博士人材の割合は、回答全体で2割程度となっています。一般企業では4%しかいないので、その5倍の博士人材が大学発ベンチャーで活躍していると言えます。
以上のことから、アカデミアに限らず、大学発ベンチャーを含めた企業においても博士人材が活躍できることは、お分かりいただけるかと思います。

文献2より引用
アカデミアでの評価
論文の筆頭著者の割合を見てみると、修士学生と学士学生を合わせても3~5%であるのに対し、博士学生は16~20%となっており、博士学生が論文の生産量を担っている状況にあります。また、博士学生が筆頭著者である高引用度論文数も16%と高いことを鑑みると、博士学生が質の良い論文を書いていると言えます。

文献3より引用
また、論文数の変化を経年で追ってみると、博士課程在籍者数が停滞したタイミングで論文数も減少するような傾向が分かっています。これらのことを踏まえると、アカデミアの世界においても、博士学生の研究力は重要であり、文部科学省としても、今後の活躍を期待していきたいと思っています。
博士をとりまく現状
年収レベルとやりがい
いずれの職種においても、業務との関連度や年収、やりがいは、高専・学士や修士よりも博士の方が高い傾向にあります。さらに、20代の技術系研究職では最近、博士の年収レベルが上昇しており、高年収かつやりがいの高い博士人材の層が生まれてきています。

文献4より引用
博士課程への進学者数
日本の博士号取得者数は低水準で推移していると述べましたが、そもそも博士課程への進学率が低下していることが影響していると考えています。修士学生が博士課程への進学ではなく就職を選んだ理由として、「経済的に自立したい」「社会に出て仕事がしたい」という理由が特に多いです。続いて「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」「博士課程に進学すると修了後の就職が心配である」という声が並び、文部科学省ではこれらが解消されれば、進学率が上がるんじゃないかと考えており、対応を考えているところです。

文献3より引用
文部科学省の取り組み
文部科学大臣を座長とする「博士人材の社会における活躍促進に向けたタスクフォース」を昨年度末にかけて実施し、博士人材が社会でどう活躍していけばよいのか、博士学生への支援はどう行っていけばよいのかを、主な検討事項として議論しました。
その一環として、今年の3月に「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」を取りまとめました。アカデミアのみならず、民間企業や国際機関、公的機関、起業家、教員といった多様なフィールドで、博士人材が博士号を生かして活躍するような社会を実現することを目指し、プランの中で以下の4つの取り組みを提示しています。
・博士人材の幅広いキャリアパス開拓を推進する。
・大学院教育を充実させ、博士課程に進学する意義を見出す。
・博士学生が安心して研究に打ち込める環境を実現する。
・初等中等教育から高等教育段階まで、博士課程進学へのモチベーションを高める取り組みを実施する。
博士学生の処遇改善
選抜された博士学生に対し、生活費相当額(年間180万円以上)と研究費からなる経済的支援を実施しています。令和6年度では、従来(令和2年度)の3倍となる22,500人を支援予定です。
例えば、「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」では、博士学生一人当たり最大290万円/年といった経済的支援に加え、研究室と大学が連携しキャリアパスの整備も行います。また、日本学術振興会が実施している「特別研究員制度(DC1、DC2)」では、アカデミックの世界を担うような研究者の育成を目的とし、博士学生一人当たり最大390万円/年の経済的支援をしています。
さらに、令和5年度から始まった「国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業(BOOST)」では、緊急性の高い国家戦略分野であるAI分野について、博士後期課程学生支援として次世代AI人材育成プログラムを行っています。
博士学生のキャリアパス開拓
まずは、大きなイベントだと「未来の博士フェス」を昨年度から2年連続で開催しています。2つの博士号を有する盛山前文部科学大臣から学生へのメッセージを熱く語っていただいたり、博士学生によるショートプレゼントや企業との交流の場、博士人材の先輩方のパネルディスカションなどを設けたりすることで、博士人材に期待されていることを博士学生に知っていただくとともに、企業の方には博士学生がどういう人たちなのか知っていただく場として、イベントを行いました。

このようなイベントに加えて、大学の主な所管である文部科学省と経済界をまとめている経済産業省の二つが手を組んで、「大学は企業と博士学生を繋げるために何をしなきゃいけないのか」「企業は博士人材がもっと活躍できるように、大学と何をしなきゃいけないのか」という議論を進めています。大学の先生や企業の人事部長、マッチング会社を巻き込んで、月一くらいの頻度で検討を行い、博士人材の企業での活躍推進のための手引きを令和6年度内に作成しようとしています。
また、博士学生の皆さんに企業と接点を持ってもらうための取り組みとして、ジョブ型研究インターンシップを行っています。従来の新卒一括採用であるメンバーシップ型雇用とは異なり、ジョブ型雇用ではジョブディスクリプション(『こういうお仕事をしてください』といった業務内容が詳細に書いてあるような書類)に則った採用の仕方にです。ジョブ型採用が今後拡大していくだろうということ、博士学生の専門性の高さがジョブ型採用とマッチするだろうということで、博士学生向けにジョブ型のインターンシップを実施をしています。インターンシップを通じて、企業で自分がどのように活躍できるのか体感してもらうのが狙いです。
就職支援としては、研究人材に特化した求人情報を掲載している「JREC-IN Portal」というマッチングサイトを運営しています。大学のほぼ全ての公募情報が掲載されており、最近は企業の情報も多く載るように。こちらで求人を探していただいて、自分の進路を考えていただけるような形になっています。
ポストドクターへの待遇確保とキャリア支援
もちろんアカデミアで活躍する方、ポストドクターについても忘れてはいません。ポストドクターが研究者としての能力をより高めていくために、適切な待遇の確保と計画的なキャリア支援を行っていきます。
ポストドクターでは、特別研究員制度のPDというスキームがありますが、従来は雇用関係のない状態で研究機関に所属することになっています。雇用関係にないため、社会保険料の支払いが成立せず、個人事業主としての負担が大きいことが問題となっていました。今後は機関ごとに勤労関係を構築することで、PDの処遇を改善していきます。
徐々にですが参加機関が増えているなかで、大学ごとに「うちの大学でPDをやれば、このような処遇を受けられます」みたいなことをアピールするようになり、競争の効果もあってか、処遇が少しずつ改善しているように感じています。

文献10より引用

文献10より引用
また、文部科学省としては、研究者以外の方にもアカデミアの分野で活躍してもらいたいという思いがあります。これまでの研究経験や博士の課題解決力・課題発見力を期待して、リサーチャーアドミニストレーター(URA)という研究開発をマネージメントするような人材として活躍するような、キャリアパスの確立と適切な処遇を推進するべく、今年度から新しく事業を作っているところです。
文部科学省内での取り組み
文部科学省の中でも、博士人材の活躍を現在進めているところです。20年前と比較すると令和5年における5年平均の採用人数は4倍に伸びており、どんどん増加している傾向にあります。
私自身は学部で入省しましたが、博士で活躍している先輩や後輩がたくさんいます。博士の方は研究でデータを分析して仮説を立てて検証することを経験しているため、データの分析能力やそこからどう論理立てて施策を作っていくかという力が非常に高いと日々感じており、私自身も負けていられないという思いで仕事をしています。
我々の仕事は、データを見て仮説を立てて、解決するためにはどうしたらいいのかと、解決手段を打ちながらその仮説に合っていたのか検証して、また新しい手を打っていくことの繰り返しで、非常に研究に近いと感じています。
博士人材の採用人数を増やしつつ、昇進スピードも速める取り組みも進めているところなので、ぜひ文部科学省でも活躍していただけるような人が今後増えていったら嬉しいなと思います。

文献6より引用
博士人材が輝く社会の実現に向けて
令和6年の2月に、経団連から「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言」が出ました。「博士が社会で活躍できる人間なんだ」と認識が変わり始めていること、そして博士の活躍に期待をしていきたいと思っている企業が増えてきていると、文部科学省でも感じています。「博士は活躍できる人材なんです」と引き続き発信していきながら、ボトルネックとなる部分についても解消を進めていきます。

文献11より引用
博士学生の皆さんは思う存分、研究に打ち込んでいただいて、博士課程で培った専門性と能力を生かして、やってみたいと思うことに挑戦していただければと思います。そういった環境を、文部科学省と産業界、大学など、関係者の皆様で協力して作っていきたいなと思っています。
本セミナーでも取り上げられた「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」が今年の春に公開されて、博士界隈で大きな話題になりましたが、文部科学省がどんなことに課題を感じていて、それをどのように対処しようとしているのか、直接お話を伺う機会が得られて大変興味深かったです。
博士学生だけでなくポストドクターの待遇改善にも言及されており、産業界だけでなくアカデミアでも改革を進めることで博士人材全体の支援を行いたい、という国の姿勢が垣間見えた気がします。
一方で、ジョブ型研究インターンシップのような専門性を主軸とするキャリア支援の実施や、企業における研究開発人材への評価を取り上げるなど、博士人材の専門性の活用や理系分野の博士人材に特に力を入れているような印象を受ける場面も。博士人材の多様なフィールドでの活躍を目指すうえで、専門性以外の汎用的スキルの活用や人文社会などの文系分野の博士人材の活躍も重要だと思うので、これらに対する施策についてもじっくり話を聞いてみたいところです。
文献1:経済産業省 「博士人材の産業界への入職経路の多様化に関する勉強会 議論のとりまとめ(案)」
文献2:文部科学省 「博士人材のキャリアパスに関する参考資料」
文献3:文部科学省 「博士課程学生の研究への貢献と経済的支援の必要性」
文献4:内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 「博士人材のキャリア(趣旨・概要)」
文献5:文部科学省 「科学技術・学術分野における人材の育成・確保をめぐる現状と課題」
文献6:文部科学省 「博士人材活躍プラン」
文献7:国立研究開発法人 科学技術振興機構 「次世代研究者挑戦的研究プログラム」
文献8:日本学術振興会 「特別研究員」
文献9:国立研究開発法人 科学技術振興機構 「国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業(BOOST)」
文献10:日本学術振興会 「研究環境向上のための若手研究者雇用支援事業」
文献11:一般財団法人 日本経済団体連合会 「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言」


