2024年8月27日、株式会社アカリクとエナゴが共催する博士向けキャリアイベント「研究・論文執筆は民間企業でもキャリア構築につながるのか?」に参加しました。各スピーカーがパネルディスカッションの形式で、博士人材が民間企業でどのように博士の強みを活かしているのか、論文執筆が社内ではどのように評価されているのかなど、経験談に基づく貴重な意見を語っていた様子をお届けします。

主催・スピーカー
主催
株式会社アカリク:大学院生・ポスドクの就活支援やイベント開催などを事業として展開。

Enago(エナゴ):研究支援、学術コンサルタントやマーケティングなどを行う学術研究支援サービス。
スピーカー
・遠藤 雄二郎 氏(社会人博士※):ライオン株式会社 研究開発本部 マネージャー
・馬場 亜沙美 氏(課程博士※※):株式会社オルトメディコ 研究開発本部 課長
・久松 剛 氏(課程博士※※):合同会社エンジニアリングマネージメント 社長
・本田 大悟 氏(課程博士※※):株式会社リネア 経営戦略本部 フェロー
・松岡 亮輔 氏(社会人博士※):キューピー株式会社 研究開発本部 未来創造研究所 ヒューマンヘルス研究部 部長
博士号取得と民間企業というキャリア選択
(以下、課程博士の方は緑の背景、社会人博士の方は青の背景で、画像を表示します。)
民間企業に就職したきっかけ

博士進学時点でアカデミア・民間企業のどっちも考えていました。先に社会人になった友人の話を聞いて、世の中をいろいろ知りたいなぁと思うようになり、民間企業に就職することに。

リーマンショックの影響でポスドク内定が白紙に。エンジニアとしてバイトをした後、民間企業に就職しました。

博士2年次まで思ったような結果が出ず、3年次に分野の違う論文を3本書いたり、それらをまとめたりで大変でした。その過程でポスドクを決めることができず、アカリクさんを頼って就活し、民間企業に進みました。
分野や個人、社会情勢によって、就活の動機は異なる様子でした。一方で、大学の就職課では博士学生向けのサポートが機能していなかったり、個々で就活を進める状況で心に余裕がなかったりしたことで、就活が大変だったという声も。また、研究者としてのキャリアにいつ区切りをつけるのか、考え方を教えてほしかったとおっしゃる方もいました。

現状の博士学生の就活では、博士採用している会社に応募した方がスムーズに進むとのこと。博士就活に理解のある大学就職課であれば、企業と交渉してくれることも。アカリクなどの大学院生向け支援サービスを活用するのもアリ!
社会人博士を志したきっかけ

「社会経験をしたい!」と思い、修士課程を終えた後に就職をしました。小さいときから博士になりたいという夢を描いていたこともあり、研究能力の高さの証明となる博士号を取ることに。

修士課程を終えた後に博士課程に進むか迷いましたが、英語論文やコミュニケーションに苦手意識があったため、修士号取得後は民間企業に進みました。仕事をする中で苦手を克服し自信が出てきたので、社会人博士として博士号を目指すことにしました。
両者とも博士号にもともと興味があって、社会に出て実務経験を積んだり、スキルを身につけたりした後に、社会人博士の道を選択されていました。大手では、福利厚生として社会人博士制度を設ける企業も。会社によって制度の有無が異なるので、社会人博士に興味のある修士課程以下の学生は、就活のときに企業に尋ねてみると良いという意見も出ました。
アカデミアから企業への転職は可能?

可能!転職の際は「何がしたいのか?」が大切。給料や居住地といった観点も踏まえて、自分の軸を棚卸しすると良いです。

アカリクからの紹介でポスドクの方などの応募があり、研究実績を踏まえて給料の提示をしています。これまでの研究にこだわらなければ、企業のポストはいろいろあるはず。
ポスドクから企業へ転職する方は一定数いるようで、昔に比べると増えているとのこと。自身と企業の研究分野ががっちりハマればすぐに活躍できるそうです。もしも分野が異なる場合でも、博士人材は異分野を吸収する力を持っているので活躍できるはず!という声もあがりました。
大学院での経験が企業でどう活きている?
研究経験はどう活きているのか

ビジネスシーンで活きていると感じるものは、主に2つあると思っています。1つ目は「自身の専門性の証明(ブランディング)」で、博士号を持っていると会社内で一目置かれる存在に。会社を代表して外部の方と話す機会も多いです。2つ目は「論文執筆の経験」です。研究の考え方や論文執筆の思考パターンは、対外交渉などで活きていると思います。

特に基礎研究だと、専門性は直接活かせていないです。一方で、「自立して進める力(新しい課題を設定してリサーチし実現する力)」は、ビジネスシーンでも難しいとされているスキルで、研究以外でも活きています。プレゼン力やロジカルシンキングはもちろんのこと、研究費獲得経験や指導経験なども活きると思います。
書類仕事でどう活かせるのか

論文執筆を通じて「物事を逆算して組み立てる力」が身についたと感じています。特に意識せずに活用できるレベルまで高められているので、書類仕事で大いに活きています。
企業では書類を作成する場面が意外にも多いですが、プロジェクトの予算獲得などの稟議書(役職者などの関係者に回覧して承認を得るために作成された書類)、役所への申請書などの書類作成で、ロジカルに書く力が発揮されるそうです。丁寧な書類を作ると評価された方も!
社内での論文執筆はどう評価されているのか

仕事内容で評価は変わります。論文が事業に活きるのであれば評価されますが、記録として残すための論文であれば評価されにくいです。

論文執筆は限られたメンバーしかできない業務。論文は社外的にわかりやすい評価で一生残るものだし、社内的にも事業に直接繋がっていると感じます。

論文執筆が直接求められているわけではないですが、会社の宣伝広告に使えます。また、転職などのキャリア形成につながる面はあります。
研究内容によって、論文執筆業務が評価される場合と、されにくい場合があるとのことでした。ITエンジニア(特にデータサイエンティスト)では、論文執筆スキルが問われ、インパクトファクターも指標の一つなのだとか。また、企業での論文執筆は、アカデミアへの転職に業績として使えるそうです。プロジェクトマネジメントなどの社会人経験も、アカデミアでは歓迎されるとのこと。
ちなみに、企業で論文執筆を行う際は、日頃から書き溜めておく方もいれば、比較的手が空いている日や土曜日にまとめて書く方もいるそうです。「本文はこの人、図はこの人」と他者と分業して論文執筆する企業も!
博士として正当に評価されていると感じるか

給料面の優遇はないですが、後から評価がついていくるという印象です。例えば、海外だと「博士号は持っているか?」とよく聞かれるので、博士号を持っている社員が海外学会に参加することが多いです。

直接的な評価はないものの、博士は総じて評価が高く、プロジェクトのコアメンバーとして活躍する博士も多いです。
博士号自体が、給与面での優遇につながることは少ない様子。ただ、博士人材がもつ能力を発揮することで、結果として評価アップにつながるようです。また、シンクタンクなどのコンサルタントでは、国のプロジェクトを採択する際に、博士人材がメンバーにいると有利に働くそう。文献調査能力を活かした市場調査など、実務でも活躍できるとのことです。
課程博士修了者と社会人博士修了者、二つの立場から議論が展開していたのが面白かったです。私は特に社会人博士の方にあまり馴染みがないので、社会人ならではの強みや考え方を知ることができて、参考になりました。
論文執筆については、直接的に企業で求められることはないという声もあったものの、今回は研究開発に従事する方が多く、論文を書いている時点でスキルとして活かせているはず!論文執筆業務のない職業をされている博士の方にも、聞いてみたいところです。
民間企業への就職のきっかけが「ポスドクがだめで……」というのが切実だなと感じました。アカデミアがだめで”ドロップアウト”で企業に行くというネガティブな考え方が、特にアカデミアにはあるような気がします。アカデミアへの道、企業への道、どちらも対等なキャリア選択として考えられる雰囲気があってもいいのかなと、今回のイベント参加を通じて思いました。


