#1-3 ITコンサルから専業主婦として新たな挑戦

博士人材インタビュー

産業界で活躍する博士のキャリアに迫る!
~ PhD Career Story ~

#1-3 (後編) 中小IT企業コンサルタント・専業主婦

博士といえば研究者のイメージが強いですが、企業就職や起業など多様なキャリアを歩む博士も増えています。PhD Career Storyでは、多面的なスキルや経験、価値観を持つ博士が、博士課程で得たスキルや知識を活かしながら、未来を切り拓いている姿に迫ります。


前記事では、開発職で多くの人と協力し、効率的に仕事を進めてきたつぐみさん。やがて、業務の標準化や効率化への興味からIT業界へ転職し、ITコンサルタントとしても活躍しました。しかし、家庭の事情で専業主婦という新たなステージを選んだ彼女は現在、博士としての経験を活かしながら、育児とキャリア支援の活動を両立させようと奮闘中です。今回は、そんな彼女の転職のきっかけから現在に至るまでの道のりを紹介します。

つぐみさん
化学系、博士(理学)

国立大学で博士号(理学)を取得後、大手メーカーで開発職に従事。その後、業務の標準化に関心を持ち、IT系中小企業に転職し、ITコンサルタントとして活躍。現在は専業主婦として6ヶ月になる娘さんとともに日々を過ごす傍ら、自身の博士課程での経験やキャリアについて発信。博士学生が多様なキャリアを選べる社会の実現を目指す。


「業務の標準化」に興味をもち、転職を決意

開発業務は楽しかったのですが、仕事の中で業務の標準化に興味をもち、転職することにしました。

会社の業務では、「誰でも同じようにできること」が求められる場面が多いですが、技術や知識が属人化されており、「この人がいないと困る」という状況がたくさんあります。

そのせいで非効率だったり無意味だったりする作業が発生し、残業に繋がることも多くて。

業務を円滑に進めるうえで、「属人化を解消しないとダメでは?」と興味を持ち、業務の標準化に繋がる業務基幹システム(※)を扱う会社に転職しました。

業務基幹システム

会計ソフトがお金の管理に特化しているのに対し、業務基幹システムは人・物・金の流れを一括管理するシステム。製品の材料管理や出荷の追跡、社員の労働や給与管理が可能で、各部署が異なるシステムを使っていた場合でも、業務基幹システムを導入することでデータのやり取りが円滑になり、企業全体の業務を効率よく一元管理できるようになる。

お客様は経営課題があってシステムを導入しようと考えているので、その課題に対してシステムでどうやって解決していくのか、コンサルティングを行いながら、システムの開発や導入をしていました。また、導入後の運用や保守、現場の方々がシステムを使えるように教えることも業務の一つです。

そのなかで、私の主な仕事は、お客様へのヒアリングとプロトタイプ制作を繰り返すことで、お客様が現場で使えるシステムを構築することでした。

まず、現場でシステムを使う方の要望や課題を聞き、かつ使いやすいようにシステムの基本的な動作を社内でカスタマイズします。そして、プロトタイプを実際にお客様に触ってもらうことで、課題は解決できているかヒアリングを行い、さらにシステムに落とし込んでいきます。

また、システムのマニュアルや提案資料を作ったり、システム内のデータを準備したりしました。

ITコンサルタントとしての挑戦

前職よりもお客様と接する機会が多く、「お客様の役に立つ」という実感が得られて面白い一方で、システム面や社内の進め方で苦労しました。

システム面では、カスタマイズとデータの準備が大変でしたね。会社で扱っていたシステムは、基本的にはプログラミングなしでカスタマイズできることが特徴の製品でしたが、それゆえカスタマイズできる箇所が膨大にあって。その中から必要な部分を調べ上げて作業をするので、どこをいじれば良いのか探すのが大変でした。

また、転職先の会社は中小企業で、会社を大きくしていくフェーズにいたので、大手と違いノウハウが十分に蓄積されていませんでした。手探りで仕事をしたり、人手が不足していたりすることが日常茶飯事で。その中で、お客様に毎週プロトタイプを見せてフィードバックをもらって、というのを繰り返していたので、限られた時間の中で提案物を作り上げることが大変でした。

常に新しい問題が発生して、それを知っている人が社内にもいないから、自分で調べて対処していく、という場面がかなり多かったです。

そんなときは、システムに関する膨大な情報が載っている公式マニュアルがあるので、必要箇所を調べ上げて参考にしながら、要望を実現できるのかどうか試すことを繰り返していました。

研究では科学雑誌をあたって文献をたくさん調査しますが、その経験があったからか、「どう調べたら、目的の情報にたどり着けるだろうか」という勘が養われていたようで。周りの方に比べて、必要な情報にたどり着くのは苦じゃなかった印象です。

実装するときも案の定うまくいかないことがたくさんありましたが、「どの部分でうまくいかないのか?」と洗い出すのは、学生時代も前職でも散々やってきたので、一つずつ地道に潰しながら原因を追求し、最終的に動くように実装するまでも早かったです。

学会発表の経験が堂々さに繋がった

印象に残っていることが、お客様に初めて提案したときに、同行していた役員から「初めてなのに、すごい堂々としていてびっくりした。リーダーよりもしっかり喋るから、全部喋って欲しいくらいだ」と言われたことです。

大学院生の5年間で学会発表を20回経験したのですが、そのなかで広い会場で50名近くいる中で発表したこともよくあり、堂々と話すことに繋がったのかなと。分野のトップの先生方が目の前で話を聞いていて、質疑応答も行うので、度胸がついたんだと思います(笑)

発表するときも、画面をずっと見ながらではなく、会場に目配せしながら、間のとり方も含めて話す練習をしていたので、そういったものも活きたのかも。まさかこういった経験が社会人になって活きるとは思わなかったです。

家族と博士のキャリア支援を両立できる道

旦那が転職することになり、引っ越すことになったので、IT会社も2年ほどで退職しました。

今住んでいるところも、数年したらまたどこかへ引っ越すことになるので、また数年働いて辞めるとなるとキャリアを積むのが難しいなぁと感じ、思い切って専業主婦になりました。

専業主婦になったものの、ずっと考えていたことがあって。

社会に出てから、博士課程で色んな経験やスキルを身につけていることを、身を以て体感しました。けれど、社会では博士学生の専門性だけを注目されて、「こだわりが強い」と言われるのは、ちょっとおかしいんじゃないかなと。

確かに世間のイメージ通りの博士の方もいますが、みんながみんな、そうではないです。博士にもいろんな人がいて、それぞれが学生時代に培った様々な経験やスキルを活かして、多種多様なキャリアを歩んでも良いと思っています。

現在は、博士学生がいろんなキャリアを歩めるように、何かしらの形で支援したいと考えています。家族として心地よく過ごすこと、そして、博士学生のキャリアを支援すること、どちらも両立できるような道を模索していきたいです。

つぐみさんが思う、学生時代にやっておくべきこと

1.他者とチームを組んで何かをする経験

特に理系に多いのですが、みんなで議論する際に「正しい・正しくない」の軸で最初から判断しがちな人が多いです。せっかく出た意見なのに、「間違っている」と指摘し、意見が出てこなくなることもあります。

相手の意見を一旦受け入れて、「この人の言いたいことや考えの背景はなんだろう?」と考えて、「面白いですね!なんでこう思ったのですか?」と言えると、意見がどんどん出る雰囲気に。相手を一旦受け入れてみるという経験をしておくと、社会にすぐに適応できそうです。

2.自身の研究を発表できる就活イベントへの参加

アカデミア、企業就職どちらの場合でも、博士学生向けのポスター発表など、企業の人事に自分の研究を直接話せる就活イベントに、一度は参加することをオススメします。

研究室に閉じこもっていると、専門用語を含めた会話が当たり前になってしまいます。けれども、そんなことはなくて。そのまま人事の方に喋っても、意味がわからなくて、「難しいこと喋る人だ」とマイナスに捉えられてしまう。

通用しないと一度経験すると、「相手のレベルにあわせて、どうやって話せばいい?」と考える癖がつきます。アカデミアでも企業でも人に分かりやすく伝える技術は非常に大事になるので、ぜひ経験してみてほしいです。

「企業で働けるのかな?」とか「専門性以外にどんなことが活かせるのかな?」と不安な学生さんもいるかもしれません。けれども、みなさんが思っている以上に、博士課程の3年間の研究を通して、専門性を含めて多くのスキルが高いレベルで身についているので、自信を持って研究生活を全力で楽しんでください!

また、「博士学生=専門だけを突き詰めたようなこだわりが強い人間」という偏見がなくなり、博士学生の魅力をきちんと評価してもらえるような社会になったらいいなと思います。


こうして、開発職やITコンサルタントとして多様な経験を積んできたつぐみさん。現在は専業主婦として家庭を支える一方で、博士課程で得たスキルや経験を社会に還元し、博士学生のキャリア支援にも力を入れたいと考えています。家族と生活とキャリア支援の両立を模索しながら、次なるステージに向けて彼女の歩みは続いていきます。


次回予告

次回の”PhD Career Story”では、つぐみさんのメンター(教育係)を務めた先輩社員の方にインタビューを行い、博士人材の育成や、つぐみさんとどのように関わっていたのか、振り返っていただきます。博士の強みや課題、企業における活躍の実態について、メンター視点からの貴重な意見をお届けします。どうぞお楽しみに!

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