#1-2 「意外とできる!」博士の経験を開発職へ

博士人材インタビュー

産業界で活躍する博士のキャリアに迫る!
PhD Career Story ~

#1-2 (中編) 大手メーカー開発職

博士といえば研究者のイメージが強いですが、企業就職や起業など多様なキャリアを歩む博士も増えています。PhD Career Storyでは、多面的なスキルや経験、価値観を持つ博士が、博士課程で得たスキルや知識を活かしながら、未来を切り拓いている姿に迫ります。


前記事では、苦手なことにも果敢に挑戦しながら、研究に邁進するつぐみさんの姿に迫りました。「モノづくりで社会に貢献したい」という思いを実現するため、博士課程修了後は大手メーカーの開発職として従事することに。彼女が仕事の中で直面した課題や得た経験、さらに博士課程で培ったスキルをどのように活かしてきたのか、その軌跡をたどります。

つぐみさん
化学系、博士(理学)

国立大学で博士号(理学)を取得後、大手メーカーで開発職に従事。その後、業務の標準化に関心を持ち、IT系中小企業に転職し、ITコンサルタントとして活躍。現在は専業主婦として6ヶ月になる娘さんとともに日々を過ごす傍ら、自身の博士課程での経験やキャリアについて発信。博士学生が多様なキャリアを選べる社会の実現を目指す。


専門性を活かしながら、足りない部分を補って働く

博士課程修了後に就職した大手メーカーでは、測定機器の開発を行いました。新しく立ち上がったばかりの後継機種の開発プロジェクトが、初めての仕事になります。

開発部には光学チームやメカチームなど、専門分野ごとにチームが分かれていて、プロジェクトが立ち上がると、各チームから担当者が数名ずつ派遣されます。私のプロジェクトには、光学担当として私と上司の二人が参加しました。

後継機種は、前の機種からバージョンアップする要素がいくつかあるので、その追加要素をきちんと目標通りに実装できるかがポイントになります。また、その要素を追加しても機種全体として、これまでの性能や新しく追加した性能が担保されるのか、評価しました。

新しい要素に関しては、自分たちで考える必要がありますが、評価方法は基本的には、前の機種で評価基準とその評価方法が定められていて、それを踏襲します。

専門である光を使って業務を進めるものの、学生時代に学んだ考え方とは異なる知識が必要だったので、最初は全く慣れず苦労しました。

もちろん光そのものの基礎的な専門知識は身についているし、測定機器の扱い方や測定手法はそのまま活かせました。けれど、不足している知識があるのは間違いないので、大学院時代と同様に、上司に素直に「わからないので教えて下さい」って教えてもらったり、書籍を買って勉強したりしました。

博士だからといって、学術的にはまだまだ未熟な部分はたくさんありますし、それを自覚しているからこそ、「早く自分のものにしなきゃ!」と、貪欲に学んでいた気がします。自分一人で考えることも大事ですが、吸収できることは吸収したいと思い、周囲の方からいろいろ教えてもらいましたね。

その分、「他のところで周りの方に恩返しをしよう」という意識をもって、行動していました。

例えば、忙しくて手が回らない仕事や、面倒で誰もやりたがらない仕事を引き受けるようにしていました(笑)もちろん、自分の仕事とのバランスを考えながらではありますが。

業者に連絡して見積もりを取ったり、率先して議事録をとったり、みんなで作業する際はスケジュールやマニュアルを作ったり。細々したことから少し手がかかるものまで、いろいろやりました。

チームやプロジェクト全体が成功することが大事なので、「組織の一員として何をすれば、より円滑に進むのか」と常に考えながら行動していました。

多くの人と協力することの面白さ

基本的な進め方は、開発と研究とで大きく変わらないと思います。

どちらも、最終的な目標値を定め、それに対してどんな評価をしたらいいのか、どんなスケジュールで進めればいいのかと、計画を立てます。そして、その予定に沿って実験や解析を行い、上司に報告をする。問題があれば、何が原因なのか洗い出しを行い、実験と議論を繰り返しながら、原因を導き出します。

学生時代の最終的なアウトプットは、論文や学会発表、博士論文でしたが、開発業務では、特許、報告書、規格書(機種のスペックや評価方法をまとめたもの)、社内審査会(次の開発ステージに進んでいいか判断する会議)となるのが、違いかもしれません。

大きな違いは、関わる人たちの多様性でしょうか。

大学では基本的に研究室の中、もしくは同じ分野の共同研究先といった、基本的には自分の研究テーマの中で協力することが多いです。

企業では、一つの製品を生み出すのに、開発部だけでも、光学やメカ、エレキ、ITエンジニアなど、大学の研究の中では関わることのなかった分野の方々と協力します。身近に自分とは専門の異なる方々がいて、一緒に仕事をするのは面白かったです。

例えば測定で、「こんな治具が欲しい」とメカの方に協力してもらったり、基板の組み立て・調整をエレキの方にお願いしたり。自分一人ではなし得ないことを皆さんの力をお借りしながら達成していくのは、企業で働く面白さかもしれません。

逆に、大学での研究の方が良かったと思う点は、未知との出会いです。

私は基礎研究をやっていたので、社会貢献というよりは学術的興味で研究をしていました。私が携わるタイミングが無かったこともありますが、全く新しい製品を開発するということは大手メーカーだと数が少なく、既存の製品に既存の技術を組み合わせるという形が多かったです。

世の中にまだ生み出されていないものと出会えるワクワク感は、研究の方が上だと思います。

また、企業はお金を生み出すことが一番の目標なので、お客様が買うもの、つまり、価値あるものを生産しないといけません。基礎研究は必ずしもお金を生み出すことが一番ではないので、自身の興味・関心に全力投球できるというのも良かったです。

「博士って意外とできることが多い」と社会に出てから実感

博士課程での何気ない経験が、仕事で活きることがよくあって驚きました。

例えば、10名ほどの前でプレゼンをしたり、上司とディスカッションしたりしましたが、学会発表やディスカッションの経験などが役に立ちました。

中でも、印象に残っているのは、マネジメントです。

開発プロジェクトが順調に進み、一年目の終盤に次の中期計画を立てることに。いつも立ててくださる上司の方がとても忙しかったので、「私の方で立てます!」と、自分で中期計画を立てることにしました。

上司の方が立てる計画は、一つずつ丁寧に評価することを前提とした日程感が故に、あまり余裕のないものでした。ただ私が、実験や解析、報告書作成をするので、自分でスケジュールを組んだほうがいいなと。

時間のかかる評価だと、1条件だけで数時間もかかるものもあり、その間に他の作業を並行して進めるなど、効率よく進める必要がありました。また、プロジェクトがある程度進んだ状態だったので、「この評価は重点的に行う必要があるけど、あの評価はポイントさえ押さえれば大丈夫だ」という感触も分かっていました。

なので、以前の評価で懸念点が残ったものについては、万が一問題が発生しても対応できるように余裕日を設け、以前は問題がなく今回も再度行う評価では、測定を省ける条件もあるだろうなと。

そこで、全ての評価項目に対して、準備に何時間、実験はどんな条件で何時間測定して、報告書作成は何時間でやって、とタスクの洗い出しを行いました。そのうえで、「この測定時間に報告書や他の作業もできる」というのを考慮しながらスケジュールを立てて、上司に確認してもらいました。その結果、特に問題もなく、余裕を持って評価を最後まで完走することができました。

このマネジメント力は、学生時代の様々な経験から得たような気がします。

例えば、博士論文は複数の異なるテーマを体系的に束ねて書きあげるので、最終的に書きたい博士論文の全体像から俯瞰して、どんなテーマを書くか、またどんな結論を導き出したいのか、をよく考えていました。なので、プロジェクト全体をまずは俯瞰して、そこから作業まで落とし込むことには、慣れていたのかもしれません。

また、実験結果を効率よく出すというのも、良い経験だったと思います。

研究室のレーザ装置が1台しかなかったので、学生同士で融通して使っていました。1週間使えることになったら、どんな結果を得ればいいのか、そのためにはどんな実験をして、どんな評価をしたらいいのか、仕事と同様にタスクの洗い出しをしました。

その上、後輩の実験も組み込んで、かつその後輩の実験スキルも伸ばさないといけない、といった条件も考慮する必要がありました。時間内にどうやって結果を出すか、という効率も考えながら研究していたんだなと思います。「博士って意外とできること多いんだな」と、社会に出てから感じました。


こうして多くの人々と協力し、効率を考えながら進めた開発職での経験は、つぐみさんに大きな成長をもたらしました。その中で業務の標準化や組織の効率化に興味を持ち、さらなる挑戦を求めてIT業界へと転職を決意。次回は、ITコンサルタントとして新たなフィールドに挑戦したつぐみさんのキャリアについてお届けします。

タイトルとURLをコピーしました