産業界で活躍する博士のキャリアに迫る!
~ PhD Career Story ~
#1-1 (前編) 修士~博士課程
博士といえば研究者のイメージが強いですが、企業就職や起業など多様なキャリアを歩む博士も増えています。PhD Career Storyでは、多面的なスキルや経験、価値観を持つ博士が、博士課程で得たスキルや知識を活かしながら、未来を切り拓いている姿に迫ります。

博士課程で学んだことが、社会でこんなにも役立つとは思っていませんでした。
博士課程修了後、民間企業で開発職に従事し、そしてIT業界への転職を経て、多彩なキャリアを積んできたつぐみさん。彼女が光学分野の開発職やITコンサルタントとして直面した課題や得た経験、さらに博士課程で培ったスキルをどのように活かしてきたのか、その軌跡をたどります。また、家庭とキャリアの両立に悩みながらも、「博士学生が多様なキャリアを歩める社会を作りたい」と語る彼女の思いも深掘りしていきます。

つぐみさん
化学系、博士(理学)
国立大学で博士号(理学)を取得後、大手メーカーで開発職に従事。その後、業務の標準化に関心を持ち、IT系中小企業に転職し、ITコンサルタントとして活躍。現在は専業主婦として6ヶ月になる娘さんとともに日々を過ごす傍ら、自身の博士課程での経験やキャリアについて発信。博士学生が多様なキャリアを選べる社会の実現を目指す。
博士進学の決め手は、研究への心残りと好奇心
大学入学時は、修士課程を終えたら企業就職しようと思っていて、博士課程は全く考えていませんでした。「モノづくりで社会の役に立ちたい」という思いが強く、興味のある化学を学び、それを商品開発に活かして社会貢献できたらいいなと思っていました。
大学4年生から無機化学という分野の研究室に配属されたのですが、大学院の院試が終わった後に、当時の指導教員から「来年度から別の大学に移るんだ」と聞かされて。その研究室でさらに学ぼうと思っていたので、とても驚きました。
栄転される話を聞いたときは驚きつつも、「合成しない研究室に移れるかも」という考えが頭をよぎりました。というのも、研究で簡単な合成をしていたんですが、私は合成が苦手でして(苦笑)
思い切って、同じ化学専攻のなかでも、全く合成を行わない物理化学という分野の研究室に移り、レーザ光を使った物質の超高速応答とそのメカニズムについて研究することに。
物理化学という名前の通り、物理学が必須なのですが、実は、大学生の時に1単位しかとらなかったくらい、物理が大の苦手で。
これまで勉強していなかった私は、ついていくのが本当に大変でした。ただ、合成よりは物理学を勉強する方が楽しかったので、本当に合成は向いてなかったのだと思います。
そうこうしているうちに、修士1年の冬を迎え、周りが就活を考え始めて。そんなときに、指導教員から「博士課程に進まない?」と声を掛けられました。それまで全く考えていなかった博士課程でしたが、言われたときはすーっと受け入れられた自分がいました。
やはり物理の知識が不足していたし、実験も満足に一人でできなかったのもあり、修士卒業までの残りの1年で自信を持って研究を語れる自信がなかったです。「このまま就職しても意味がないのでは?」と、心のどこかで思っていて。
また、光を使って物質の新しい一面を開拓し、そのメカニズムを解明するという研究プロセスに面白さを感じ、「研究をもっと続けたい」と思う自分もいました。
けれど、お金やライフステージが気にかかり、2ヶ月位は進学するか悩みました。
母子家庭だったので、これ以上母に迷惑をかけたくなかったのですが、恐る恐る相談したら、「やりたいならいきなさい」と言ってくれて。調べたら博士課程では授業料の免除制度があると分かり、また先生から学振を教えてもらったので、お金に関しては不安がだいぶ解消されました。
一方で、「30歳までに出産したい」と漠然と思っていて、博士を終えるころには28歳。進学したら30歳までに産むのは難しいとも考えました。 こちらについてはかなり悩みましたが、身ごもることは神のみぞ知る領域の話。不確定な要素は一旦置いといて、今やりたいと思ったことに突き進んでみようかなと考えを改めて、博士課程に進学しました。

悔しさをバネに、苦手にもチャレンジした博士課程

案の定、研究の知識面も技術面も修士2年間では満足に身についていないと実感し、博士課程進学後も大変でした。
知識不足については、輪講で使用する教科書を何度も読み返し、不明点は別の教科書やネットで調べて解消していく、という作業を地道に行いました。
特に意識していたのが、「1%でもひっかかる部分があれば無視しない」ことです。自分の中でロジカルに説明できない部分があったら、それは「分かったつもりになっている」だけ。言語化できて人に説明できる状態に落とし込めるまで勉強しました。
実験についても、勉強と似ているところがあるんですが、問題が起きてもある程度は一人で対処できないと一人前とは言えないな、と思っていました。
そこで、教員や同期から教わった実験手順は、事細かく全てノートにメモ。「次からは一人でできるようになるんだぞ」という気合と緊張感を持って、実験に臨んでいました。
まぁ、できないのですが(苦笑)できないところは再び聞いて、また同じようにメモをして。
これを繰り返したことで、実験技術や知識が定着していきました。
また、研究テーマは新奇性を求められるため、どうしても新しいことにチャレンジする場面が訪れます。例えば、測定用に治具を工作したり、解析のためにプログラミングをしたりする機会がありました。苦手ばっかり言っていますが、工作やプログラミング、どれも元々は苦手でした。
でも、やらないことには先に進まないので、大学内で工作の講習会を受けてみたり、独学でプログラミングを勉強したり、正直「嫌だなぁ」と思いながら頑張りました。できないことが悔しかったし、意外とやってみると楽しくなることも。 博士課程を通じて、「とりあえずやってみよう!」と何でもチャレンジするようになった気がします。
専門性を活かして「モノづくりに貢献したい」
実は、学振DC1に落ちまして(苦笑)ご縁があって、化学系の産業団体が支援している博士学生向けの給付型奨学金を3年間いただいたのですが、その団体に参加や協賛している企業に就職することが条件だったので、その中から気になる会社に応募する形で就活を進めました。
レーザ光を用いた研究を行うなかで光の面白さを感じていたので、光に関する専門性を活かして社会に役立つモノづくりがしたいと考え、光を事業のコア技術として定めている会社を中心にエントリーしていました。
職種については、「モノづくりに貢献したい」という思いが強く、研究職はあまり考えていませんでした。研究という商品の種になるものを生み出す行為よりも、種を使える状態に実装してお客様に届けるという、お客様により近いところで仕事がしたかったので。
本格的に就活を始めたのは、学士や修士と同じで新卒採用が始まるころ。
学会シーズンでもあったので、そのなかでエントリーシートを書くのが大変でした。そのときは、夜10時くらいまで実験をして、その後に夜な夜なエントリーシートを書いて、研究室で寝起きしていました。
体力的には辛かったですが、奨学金のプログラムの中で、企業の方々にどのように自分の魅力をアピールすればいいのかを学んでいたので、エントリーシートに書く内容には困らなかったです。
例えば、光に精通していることや測定系の組み立てができるなどの専門性以外にも、実験の効率化や、必要とあれば独学でプログラミングなどを学習するなど、新しいことにも貪欲に挑戦して自身の糧にするなどと書いたと思います。
受賞歴などの実績も載せましたが、企業が欲する人物像や会社理念、ビジョンに合致するようなエピソードを書くことに重きを置いていました。 エントリーが始まる1ヶ月ほど前から、「何をしているときが楽しいのか・辛いのか」や「印象に残った出来事」などを、幼稚園生の頃からリストアップし、「それはなぜか?」という理由付けも行いました。そうすると、自分がどんな会社理念に合うのか、やりたい仕事や職業は何か、といったものが見えてくるので、オススメです。
つぐみさんは、博士課程での経験を通じて「モノづくりで社会に貢献したい」という思いを実現するため、開発職やITコンサルタントとして活躍しています。困難を乗り越え、専門性を活かしながら新しいことに挑戦し続ける彼女の姿勢は、企業での仕事にどのようにつがなるのでしょうか。
ちょこっとコラム:研究で「好きなこと」・「苦手なこと」

基本的には手を動かしているときが好き!
論文を読みながら「どんな実験を次にしようか」とノートに書きながら考えたり、発表資料を作ったりするのも好きですし、実験ももちろん好き。暗闇の中でパソコンの測定画面を見て、狙った結果が出ると「よっしゃあ!」と血が滾っていました(笑)

英語を使って論文を書いたり発表したりするのは苦手……
できることなら英語を使わない人生を選びたかったのに、研究では英語から逃げられないという……。でも、嫌でも使わざるを得ない環境にいたおかげで、苦手なりに英語への抵抗感はだいぶ薄れた気がします。「やらざるを得ない」という強制力が働く環境に身をおいていたのは、貴重な経験かもしれません(笑)



